ポッカリ月がでましたら
おつきさまのお話の続き
学生のころに出会った
中原中也さんの『湖上』という詩を
ふと思いだしました
淡いときめき感がよみがえります(^^)
湖上
ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。沖に出たらば暗いでせう、
櫂(かい)から滴垂したたる水の音は
昵懇(ちか)しいものに聞こえませう、
――あなたの言葉の杜切(とぎ)れ間を。月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接唇くちづけする時に
月は頭上にあるでせう。あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言(すねごと)や、
洩らさず私は聴くでせう、
――けれど漕ぐ手はやめないで。ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
出典 青空文庫